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政治家の素質とは?

 

政治というと、ネガティブなイメージを持っている人が日本にはたくさんいます。

日々、メディアで目にする政治家像はスキャンダルが多いからでしょうか。

先日も、民進党の「将来の4番」などとも言われていた、期待の星がスキャンダルで辞任しました。

「保育園落ちた、日本死ね」と題したブログを取り上げ、子育て政策に関する国会論戦をしたことで

一躍、有名になった民進党の山尾志桜里議員。

ミュージカル「アニー」の初代アニー役を務めたこともあるそうです。

東大を卒業してからは検察官に。その後2009年の政権交代の時に、民主党議員として初めて当選しました。

そんな山尾議員は民進党の期待の星として、目をかけられていました。

その証拠に、民進党の実質No.2である幹事長になることも決まっていたくらいです。

言わば、新入社員が20代のうちに執行役員…や、会長がいる会社の社長になっちゃうようなものでしょうか。

しかし、そんな山尾議員は明日にも幹事長になる!という時に不倫スキャンダルが発生。

幹事長になれないばかりか、民進党を辞める羽目になってしまいました。


山尾議員に限らず、日本では政治家のスキャンダルに対して非常に厳しい目が向けられます。

これは、アメリカでも同じようです。

日本の政治家は、聖人君子であることが求めれる一方、

アメリカの政治家は、スーパーヒーローであることが求められるといいます。

一方で、フランスをはじめヨーロッパの国では、政治家は仕事とプライベートを分けて評価されているようです。

実際、今年の5月に日本のメディアを賑わせた、マクロン大統領の年の差婚。

これは、当のフランスではほとんど話題にされていませんでした。

フランス人にとって大切なことは、マクロン氏の人となりやプライベートの事情ではなく、

マクロン氏の政治的な手腕でした。

投票率がおよそ8割に届く国フランスでは、素敵な良い人より、政治に関する仕事屋が求められるのかもしれません。

 

 

そんな政治家に対する評価の違いは、

国民性や宗教観にも裏付けられているそうです。

人間性から仕事の腕まで、政治家の評価軸は様々ですが、

みなさんにとって、政治家に必要な素質とは、何だと思いますか?

イギリス総選挙、結局どういうこと? 「ザックリ」解説

イギリスで8日に行われた今回の総選挙。圧勝すると踏んで前倒し解散総選挙に打って出た与党・保守党のメイ首相でしたが、第1党にとどまるものの過半数を維持できず、議席数を減らす大敗北を喫しました。

一方で最大野党・労働党は議席を大幅に増やし、イギリス議会の勢力図は大きく塗り替わりました。結局、どの政党も過半数を握れない「ハングパーラメント(宙吊り議会)」という結果に。ただ政局を混乱に導いただけという、歴史的に見ても稀な「無意味な選挙」となってしまいました。

自分から仕掛けた「ギャンブル」に大負けしてしまった保守党とメイ首相。これから「EU離脱」という大変な宿題を抱えるイギリスで、どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。総選挙の結果とともに、イギリスの迷走の過程を見ていきましょう。

 

総選挙の結果とEU離脱交渉への影響

今回の結果は以下の通りです。

過半数の326議席を割ってしまった保守党のメイ首相は、10議席を獲得した北アイルランドの地域政党である民主独立党(DUP)の協力を得て議会で過半数を確保する予定です。

しかしEU離脱方針で保守党と意見が違うDUPはあくまで「閣外協力」という形にこだわる姿勢で、保守党はこれから重要法案ごとにDUPの合意を取り付ける必要があります。それでも保守党政権が確保できる議席数は過半数を2議席上回るのみ。残念ながら、わずかな造反者ですぐに瓦解してしまう不安定さを残しています。

より多くの議席数を確保してEU離脱交渉を自国に有利に進めるためにわざわざ前倒しで行った総選挙で、逆に「過半数」という武器を失ってしまったメイ首相。世論だけでなく与党内部からも批判の声は絶えず、求心力の低下は避けられません。メイ首相が今後、国内をまとめていけるのかどうかは不透明で、イギリスの不安定な状況に世界中で懸念が広がっています。

また、今回の結果で、EU離脱交渉が難航することは必至です。EUとイギリスは今月19日から本格協議を開始する予定でしたが、政局が混乱している現状を見ると協議は先送りになる見通し。2019年3月までもう2年を切っている中でのこの迷走っぷりに、期限内での合意を絶望視する声も少なくありません。

 

どうして「波乱」が起きてしまったの?

なぜこのような事態となってしまったのでしょうか。その原因として、労働党のジェレミー・コービン党首個人の躍進や、二大政党どちらもEU離脱を支持したため明確な争点差別化の失敗、期間中に起きたイスラム過激派による2度のテロ事件の影響、など多くの要因が指摘されています。

しかし、その中でも大きい原因はメイ首相個人の失点でしょう。

メイ首相は、「EUとの離脱交渉をイギリスに有利に進めるためには、強く安定したリーダーシップが必要だ」と訴え、高い保守党への支持率を背景に解散総選挙に臨みました。この「強く安定したリーダーシップ」という言葉を何度も口にしていたメイ首相は、イギリス政治を語る上で欠かせない、とある政治家を念頭に置いていたと思われます。

その人の名は、マーガレット・サッチャー元首相。自由主義路線で1970年代のイギリスを牽引し、瀕死だった国力を蘇らせた「鉄の女」です。サッチャー氏に次ぐ二人目の女性首相で多くの共通点もあったメイ首相は、サッチャーばりのタフさをアピールしようとして毅然とした態度で政権運営に臨んでいました。

しかし高齢者の在宅介護での自己負担増の方針を公約で打ち出した際、有権者から強い反発が出るとたちまち軌道修正してしまいました。その上、正当な理由を明かさずテレビ党首討論会を拒否したことで一気に「鉄の女2世」から「臆病な政治家」へ転落してしまいました。昨年の国民投票ではEU残留派だったのに、離脱派に転向したこともダメだったようです。

挙句の果てに、メイ首相と保守党をひたすらディスるラップ曲「Liar Liar (ウソつき)」がイギリスで大ヒット。イギリスのオフィシャル・シングル・チャート・トップ100で4位に入るなど、「メイ政治を許さない!」旋風が全英で吹き荒れました。

「強いリーダー」に頼っている政党は、そのカリスマに綻びがでると一気に崩れてしまう。カリスマと安定を失った政権はどこへ向かうのか。これからのイギリスの「迷走の先」に注目です。

 

Written by Kensho Kuremoto

 

こちらの記事もご覧ください。

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今年の旅先は、ボリビアに決まり!!

皆さんはこれまでに、“景色”に心を奪われたことはありますか。

私は、あります。

ボリビアのウユニ塩湖。その景色に目が奪われ、気づけば一心にその美しい湖面を見つめていました。

鏡張りの美しい世界に「一度は」訪れてみたいと思っている人も多いはずですよね。今回は、その「奇跡の絶景」ウユニ塩湖があるボリビアに行く上で役に立つ情報をまとめました。もちろん、ボリビアはウユニ塩湖だけではありません。ちょっと変わった「お国事情」もまとめてみました。

 

私は、思います。旅に出ると、未知の「景色」に心を奪われると。私は、大切にします。その旅先の国が抱える政治的・歴史的な「背景」を学ぶことを。

まずは旅行編。

やっぱり1番気になるのは旅にかかる「費用」。

なんと、あの絶景を6ヶ月分のバイト代(約30万円)あれば堪能出来ちゃうんです!

ボリビアは物価が安いので、滞在費はそれほどかかりません。例えば、コーラ500mlは5bls(ボリビアーノス)で、約60円。ボリビア旅にかかる費用で多くを占めるのは交通費くらいです。現在、日本からの直行便はなく、アメリカやブラジルで少なくとも2回乗り継ぎが必要なんで、仕方ないです…。

ただ、30万円は最低ライン。バスで10時間程かかるラパスとウユニの移動を飛行機に変更したり、現地の民宿ではなく少しアップグレードなホテルに泊まったりすると、その分費用はかかります。

ウユニの標高は約3700mで、富士山山頂とほぼ同じ高さです。高地と聞いて1番心配なのは高山病。頭痛、吐き気、息苦しさに襲われる高地特有の症状です。

高山病対策として現地でよく飲まれているのが「コカ茶」。その名の通り、コカの葉をお茶にしたものです。日本と同様にボリビアでもコカインは違法ですが、コカ茶はスーパーなどでも普通に販売されています。

続いて政治編。

政治的な背景をちょっと知っていたら、目に映る景色の印象も変わるかも。

ボリビアの大統領はエボ・モラレス氏。

初の先住民出身の大統領であり、2006年から現職を務めています。

元々ボリビアの憲法では大統領の任期は4年、再選は一度のみと定められていました。しかし、現大統領は2009年に憲法を改正。中身は「一度きりの再選」を「2回までOK」に。そして再選し、2020年までの長期政権を築くことになったのです。このように、国の根幹となる憲法を変え、自分が再選できるようにしたものの、ちゃんと国民からの支持は得ていました。それは、一体なぜでしょう…。

南米最貧国でもあるボリビアでは、貧富の差が大きく、先住民や貧困層は不満を持っていました。国連人口基金のデータによると、ボリビア国民約950万人のうち、実に約675万人が貧困状態。そこで彼らの声を拾ったのがモラレス現大統領。先住民の権利拡大、天然資源の国有化、農地改革などを定めた新憲法の成立により、彼はボリビアの経済成長を可能にしました。

最後に、ボリビアの選挙制度を見てみましょう。

ボリビアは、日本とは違って「直接」大統領を選びます。また、2006年の大統領では投票率が驚きの94%。この高い投票率には、“ちょっとした秘密”があるんです。

それは「義務投票制」。ボリビアでは選挙3日前からは、アルコール類の販売が禁止、さらに当日は交通機関や店舗も営業停止になっちゃうんです…。

そして選挙に行った証明がなければ、3ヶ月間給料を受け取ることができません。こういう制度の下だったら、さすがに投票行かないと!って思いますよね…。

ボリビアを「旅行」と「政治」に分けてザックリ解説しました。今年の夏の旅先が決まっていない方は、ぜひ参考にしてみてください!

ちなみに、冒頭のウユニ塩湖の写真、スマートフォンで撮影し、加工など一切なしです。

インスタのいいねも増えそうですね…!

 

Written by 横田莉奈

 

参考

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/bolivia/data.html

http://www.sankei.com/world/news/160224/wor1602240042-n1.html

http://andino.blog26.fc2.com/blog-entry-8055.html

政治とエンターテインメントとフランス人100人とマクロンとルペンと。

#0 挨拶

この記事は、ぼくが常日頃から批判の目を向けている種類のものだ。文字だらけで、しかもとても長い。毎日遊びに仕事に忙しい現代人には不向きな、冗長な文章が続く。

だから先に結論を書いておく。

 

この文章のテーマは、「国民の政治参加が進むことは本当にいいことなのか」だ。

 

4月25日から5月10日までの16日間、ぼくたちは大統領選挙中のフランスに滞在し、多くのフランス人に話を聞いた。

ぼくがこの文章でまず伝えたいのは、フランスはものすごく政治参加が盛んだということ。フランス人は若者からお年寄りまで政治の話をするのが大好き。日常的に家族や友達と政治について議論し、投票という形で政治に参加する。大統領選挙の投票率はいつも8割を超えるほどだ。ぼくがこのフランス滞在を通して見てきたのは、日本では想像もできないほどに政治を「自分たちのこと」として捉えて、政治で何かを変えられると本気で信じていたフランス人たちの姿だった。

 

一方で、「投票しただけで社会を変えられるなんて都合がいい」と吐き捨てる意見にも出会った。「深く勉強せずに、都合のいい話だけ議論して、政治に参加した気になっている」という批判もあった。

「もっと若者の政治参加を促したい」と思って活動している若者は多い。ぼくもその一人だ。しかし、国民の政治参加が非常に進んだフランスで、ある意味ぼくは政治や民主主義の「限界」を見てしまった気がした。

国民の多くが政治に参加したとして、果たして社会はいい方向に進むのだろうか。むしろ衆愚政治が進んでしまうだけではないのか。

帰国して数週間が過ぎた今も、まだ答えは出ない。

 

それでもなお、ぼくは誰もが政治に参加しやすい仕組みを考え続けたいと思っている。国民が政治に参加することはやっぱり大切だと、信じたいと思っている。自分たちの生活や幸せを、1人ではどうしようない大きな力によって変えられてしまうことの無いように。

このとっても長い文章に、ぼくがフランスで見て聞いて感じてきたことのすべてをまとめてみた。ぼくがフランスで体験してきたことのすべてを、読んでくださる方が追体験できるように、考えうるすべての工夫を詰め込んだ。

 

だからどうか、読んでみてほしい。

この国の未来を、社会を憂い、そこにある課題を解決したいと思っているすべての人に。

そしてそのために、政治という手段に少しでも価値を見出しているすべての人に読んでほしい。

 

そしてフランスでの体験を共有したあなたと、ぜひいろんな議論を交わしてみたい。

そんな思いを込めて、この記事を書きました。マンガや映画、はたまた小説を読む感覚で、最後までお付き合いいただければ幸いです。

 

POTETO代表 古井康介

 

#1 PROLOGUE

チケットの座席番号を確認し、リュックを頭上のスペースに入れる。あいにく通路側の席だ。窓から外の景色は見えそうもない。ツレとも席が離れてしまったし、ためらいなくイヤホンを耳にはめる。フランスに行くんだ、選曲は映画「最強のふたり」のテーマ「September」に決まり。

飛行機はゆっくりと移動し滑走路へ向かっていた。機体が急にスピードを上げ、耳元のメロディが遠ざかる。グググッと体に圧がかかる。前進する機体はゴーッッ、、、と音を立て、やがてフワッと離陸した。

フランス。

オシャレと美食で名高いその国は、めちゃくちゃ国民の政治参加が進んでいる。国民は朝から晩まで政治談議にふけり、大統領選挙の投票率はいつも8割を超えるほどの高さ。その背景のひとつはフランス革命にまでさかのぼるという。大昔に民衆が王様から権力を勝ち取った、そんな歴史が今も国民の政治意識を高めているのだ。

そんなフランスで今、何やら異変が起こっているらしい。

 

EU離脱を掲げる、スーパー右派のマリン・ルペン氏が人気を集めているのだ。ドイツと一緒にEUを引っ張ってきたフランス。そんなフランスにとって、EU離脱を掲げるルペン氏が大統領候補になるのは「考えてもみなかった」選択だった。トランプ大統領誕生のアメリカ大統領選挙を思い出す。

彼女はフランスのEU離脱を訴え、トランプ氏のように保護主義的な経済政策を構想しているという。移民の受け入れやグローバル化によって、苦しい生活を強いられている労働者たちの声を代弁しているようだ。

 

そんな彼女に立ち向かう候補は、選挙をしたこともない無所属の39歳、エマニュエル・マクロン氏。投資銀行、高級官僚とスーパーエリート出身の彼は、前政権でその手腕を評価され民間人として経済担当大臣を務めた。

ルペン氏とは対照的に、EUとの共存やグローバル化を支持するマクロン氏。その方向性は、一言でいえば「今までの通りのフランス」だ。どうやら、右すぎる主張も左すぎる主張も嫌な人たちと、EUを守りたい人たちが支持しているらしい。

もちろんフランスにも、自民党と(かつての)民主党のように二大政党がある。しかし、それらの政党の候補者は第一回目の投票、いわゆる予選で敗退してしまった。

投票率が高く、国民の政治参加が進んでいると言われているフランス。そんなフランスで躍進する、極右候補と無所属候補。

 

フランスで、一体何が起こっているのだろう。

それをこの目で確かめたくて、僕は飛び立ったのだった。

 

#2 ニース、ルペン集会 政治で何かを変えられると思っている人たちとの出会い

フランスの首都パリ北部にあるシャルル・ド・ゴール空港は分厚い雲に覆われていた。

今にも雨が降り出しそうな曇り空に、少し肌寒さを感じる。4月頭から海に入れるほど暖かいと聞いていたフランスは、不安な社会情勢を映し出したかのような薄暗さに包まれていた。

 

ぼくがフランスに到着して真っ先に向かったのは、ルペン氏の集会だった。

場所はフランス南部の街、ニース。シャルル・ド・ゴール空港からニース空港までさらに飛行機を乗り継ぎ、ぼくは単身でルペン氏の集会に乗り込んだ。

 

ニース空港を出て、海外旅行では割とおなじみになって来た配車サービス「Uber」を降りると、陸上競技場にも使えるような、大きなスタジアムが待っていた。辺りには大きな銃を持った警官がうようよいる。

いつものようにiphoneでスタジアムを撮影しようとすると、警官たちに止められた。なんだかちょっと怖い。

ルペン氏はもともと極右政党の党首だったという。正直得体のしれない怖さを感じる。もしかしてぼくは非常に凶暴な人たちが集まる場所に来てしまったのではないだろうか…。不安が胸をよぎった。

 

スタジアムの敷地に入る所で、まずは身体検査が行われた。ポケットの中身はもとより、カバンもすべてひっくり返される。ノートやスケッチブックはさかさまにして間に何かが挟まっていないかまで入念にチェックされた。

ネット上の噂で「排外主義的なルペン氏の集会にはフランス人しか入れない」と聞いていたぼくは、パスポートを要求され少し焦る。とっさに「フランスに政治の勉強をしに来ました」と片言のフランス語を唱えた。警備員は少し口をへの字に曲げたが、ゲートを通してくれた。第二外国語をフランス語にしておいて本当に良かった。よし、最初の関門は突破だ。

少し進むと、スタジアムがあった。入り口に向かって長蛇の列ができている。

ルペン氏のスローガンが書かれた旗を持つ男性たちは、ぼくの顔を見ると「中国人か」と聞いてきた。「日本人です」。そう答えると彼らは「日本の漫画は大好きだよ、わざわざ日本からルペンを応援しにくるなんていい奴だな」と笑った。

 

ぼくは昨年アメリカのピッツバーグで参加したトランプ氏の集会を思い出した。なんだかあの時と似たような歓迎をされている。

ぼくの後ろに続いてきたのは、地元の大学生グループだった。まるで授業の後に、ラーメンでも食べに行くようなノリで、彼らは集会に来ていた。ところどころ聞こえる会話から推測するに、セックスの話をして盛り上がっているみたいだ。国を越えても話す内容は変わらないな。

 

さて、いよいよ入り口にたどり着くというころ、ぼくはタバコが吸いたくなった。

フランスでは、屋内は全面禁煙な一方で、屋外であればほぼどこでも自由に喫煙ができる。(本当は、屋外も禁煙なのだが、この国の人たちは警察の目の前でも堂々と路上喫煙をする)。 日本からポケット灰皿を持参したぼくは(路上喫煙であることに変わりはないのだが)、ともあれ一服しようとタバコを取り出した。しかし、どうしたわけかライターが使えない。移動中に壊れてしまったのだろうか。

困っていたぼくに目の前の20代後半ぐらいの女性がライターを貸してくれた。ブロンドの髪に青い瞳。抜群のスタイルを強調するかのような薄手のTシャツにジーンズ。エロい。タバコミュニケーションが始まる。「なぜ、ルペン氏を支持するのですか?」「それはね、この国の状況が、経済や移民のせいで落ち込んでいる。それを解決できるのは彼女しかいないからよ。」

 

ニースは割と大きめの都市であるものの、田舎と称す人もいるような街。英語が話せる人は少ないと思っていたが、このお姉さんは割と流暢に話してくれる。少し会話を続け盛り上がったころ、写真を撮っていいかと尋ねると、意外な返答が返ってきた。「ごめんなさい、写真は遠慮してもらえるかしら。私、移民受け入れに関する仕事をしているの。」

その時は正直警戒心がまだ残っていたのもあって、それ以上お姉さんに話を聞くことはできなかった。移民と常に向き合うような仕事をしているからこそ、フランスが移民を受け入れる大変さを感じていたのだろうか。彼女のその言葉に重みを感じた。

 

スタジアムの入り口に戻ると、再び身体検査が待っていた。

何回カバンをひっくり返さなきゃいかんのやら…。わずらわしさを感じていると、アメリカのコメディドラマに出てきそうな大きな目をした30代後半くらいの警備員がとても丁寧に荷物をカバンに入れなおしてくれた。ちょっと微笑ましい。

とにかく厳重だった検査を潜り抜けると、客席下のコンコースのようなところに出る。そこでは、ルペン氏のグッズが売られていた。飲み物やスナックもある。

政治集会だと言わずに日本人をここに連れてきたら間違いなくスポーツイベントかコンサートだと勘違いするだろう。それくらい賑やかな様子だ。ぼくもルペン氏の缶バッジを一つ購入する。2ユーロ。これでこの場においては仲間としてみてもらえるはずだ。

 

そんなルペン氏のバッチを胸にいざ会場の扉を開けようとすると、入口でまたお兄さんが立っている。

年はぼくと同じくらいだが、顔は僕と比べるのもおこがましいほどのイケメンだ。本当にフランス人は高身長イケメンばかりでびっくりする。

はあ。今度は何の検査だろう…。そう思って近づくと、お兄さんはサイリウムのように赤と青の輝きを放つルペンバッジをくれた。無料でもらえるのか!そう知ったとたん貧乏性が顔を出す。お土産にたくさんくれないか?そうお願いしてみるとイケメンは笑顔で両手いっぱいにバッジを渡してくれた。嬉しいのに悔しい。「Merci.」そう告げて、両手いっぱいのバッジをポケットに詰め込んだ。

 

そしていよいよ、会場の扉を開いた。

映画館の入り口にあるような防音風の重い扉を押す。ググッ。重たい扉の隙間から、鮮明な青い光を放つステージが目に飛び込んできた。そして耳をつんざく群衆の大歓声!

うおおお!すごい。なんだか急にテンションが上がる。

会場は新宿にある映画館、もしくは大学にある一番デカイ講堂を更に広くしたような感じ。ステージに対して半円形に広がる座席には数千人が入りそうだ。

何万人も入るような大きな会場ではないので、何よりステージが近い!こんなに近くでルペン氏を見れるのか!!すごい!!!

空いていた席の中で最前を陣取る。座席にはルペン氏のスローガンを印刷したおおきな型紙と、フランス国旗が置いてあった。天皇陛下が来た時とかにみんなで振る片手サイズの国旗じゃない。1mくらいの割と大きい国旗だ。これが全部の席に置いてあるのか。すげえな。

そんなことを考えながら着席し、ステージを眺める。やっぱり近い。コンサートなどとは違い、ステージに立っている人間の表情まではっきり見えるレベルだ。

一通り自分の中で盛り上がった後、当初の目的を思い出した。集まった支持者にインタビューをしなければ。盗られてもいい荷物を椅子に置き、話を聞きに乗り出した。

 

インタビューで出会った人たちはみんなとても親切だった。

「日本からフランス政治を勉強しに来たんだ」というと、それだけで歓声が上がる。何だか人気者になった気分だ。みんな口々に「日本が大好きだ」と言ってくれる。嬉しい。

「フランス語は流ちょうに話せない、英語でもいいですか」と問う。多くの人は英語が話せるが、話せない場合はわざわざ英語が得意な人を呼んでインタビューに答えてくれた。

会場にいた人たちのほとんどは地元ニースに住んでいる人たちだった。みんな入り口で配っていたサイリウム風のバッジを欠かさずにつけている。一方で、トランプ氏の集会で見たようなボディペイントをした人や、楽器を担いで応援に来ているような派手な格好をした人は見当たらない。みんな今からダイニングでご飯を食べられるようないたって普通の格好だ。党員以外はわざわざお金を出してグッズを買うこともなく、地元でやるからフラッと立ち寄るか。くらいの人が多いみたいだ。

 

そこにいた誰もが口にしたのは「マクロンが嫌いだ」という意見。一方で、「ルペン氏は素晴らしい女性だ」と口々に言った。

「彼女は力強い。今のフランスを立て直せるのは彼女だけだ。」

「何よりも国防、安全保障が大事なの。」

「ほら、彼女と同じブロンドのボブよ。素敵でしょ。」

「彼女は、愛国主義者だから。」

 

さっきも少し書いたけれど、やはり去年参加したトランプ氏の集会に似ていると感じるシーンが多かった。

集会の場所は、近くに高速道路のジャンクションがあるような郊外の大きなスタジアム。集まるのは気の良いオジサンやオバサンたち。多くは白人で、移民や難民などの「外国人」を受け入れることに対しては否定的。日本でもそんな印象を受けるけど、これはある種「保守的な」人たちの特徴なのかもしれない。

 

少し余談になるが、集会が開かれているここ、ニースのある南フランスはフランスの中でも失業者や移民が多い地域だ。もともとフランスが植民地にしていた北アフリカが近いこともあって、仕事や社会保障を求めた移民が南フランスに集まるのだという。

フランス人に比べて安い賃金で雇うことが出来る移民は、現地人からすれば仕事を奪う存在。(ちなみにぼくが降り立ったニース空港は、ルペン氏の対立候補マクロン氏が経済大臣時代に中国に売り払ったものらしい。地元の人たちからするとニース空港は仕事が外国人に奪われた象徴なのだとか)。

また、フランスでは移民も元々フランスに住んでいた人も、平等に社会保障を受けることができる。一方EU加盟国は、数年前に起きたギリシャ危機の教訓から緊縮財政を強いられているため、増税ができない。そうなると、1人1人に配られる社会保障の量も減ってしまう。だから彼らは移民に対し「社会保障を食い物にしている」印象を抱くのだという。彼らがとにかくフランス第一を強調するのは、そんな背景があるのだ。

 

そんな現状を綺麗に説明してくれるかのように、ある男性はこんなことを言っていた。

「今回の選挙はとても難しいよ。それでもぼくがルペンを支持するのは、彼女がフランス人のための政治をしようとしているからだ。日本もアルジェリアもそうだろ?日本政府は日本人のための政治をする、アルジェリア政府はアルジェリア人のための政治をする。じゃあフランス政府がフランス人のための政治をする。これの何が悪いんだい?ぼくらは困っている他国の人たちを助けてきてあげたし、これからも助けてあげたい。でももうフランスにはそんな余裕がないんだ。悪いのはEUという存在なのかもしれない。」

 

トランプ氏の集会でも聞いたことだが、トランプ氏やルペン氏を支持する人たちは、とにかく自国第一主義に惹かれている様子だった。

トランプ支持者にもルペン支持者にも、日本人の中のイメージにあるような、怖そうな人や狂暴そうな人はほとんどいなかった。いや、ぼくは一人も出逢わなかった。そこにいたのはごく普通の優しいオジサンとオバサン、あるいは大学にいるような同世代のやつらばかり。ひとつ特徴を挙げるとすれば彼らは皆、生活に困窮していたり、現在の社会に対して不満を持っていたりした。ただそれだけだ。

彼ら彼女らは、自分たちの生活を何とかしたいと考え行動しているだけなんだと感じた。確かに、自分のためになることか、周りの人のためになることかどちらかを選べと言われたら、自分がかわいいと思うのが人の性だ。

悩みながらもルペン氏を支持するそのオジサンの話から、ぼくはそんなことを考えた。

 

インタビューを終え、座席でルペン氏の登場を待つ。

到着予定時刻は20時。時間が近づくにつれ、どこからともなく沸き起こるルペンコールや国家の合唱は勢いを増していく。足踏みをしながら国歌を歌うため、地鳴りが凄い。

 

20時を少し過ぎたころ、ライトが落ちた。

ルペン氏のPVが流れ始める。

執務室でipadを眺めるルペン氏。画面の向こうには、ルペン氏が解決を公約している社会課題が映し出される。移民・難民に関する課題が紹介されると、会場はひときわ沸いた。

 

そして、いよいよ、ルペン氏が登場する。

ルペン氏が登場した時はみんなワーッと立ち上がったが、ルペン氏が話し始めると席に座りだした。どうやらここでは、座りながらスピーチを聞くみたいだ。スピーチの中で時折聴衆が立ち上がり、ルペンコールをかける。少しすると、また座る。そんな様子が繰り返された。

 

ルペンの話は、正直言うとマジで意味不明で(フランス語だから)眠かった。

でも、時折みんながわっと盛り上がってめちゃくちゃコールするんだ。割と盛り上がってたのだろう。

一方で、誰かが立ち上がったのにつられてみんなが立ち上がるような、同調圧力みたいなものも感じた。盛り上がり自体は激しかったけど、100%全員が熱狂してたわけではなさそうだった。

およそ1時間、ルペン氏は話し続けた。

演説のフィナーレが訪れる。音楽と光に加え、火薬を使った演出。やはり様相はアイドルや有名なバンドのコンサートそのものだった。

 

ルペン氏が去った後も、会場にはもわっとした熱気が残った。短いアナウンスが流れた後、集まった人たちはそれぞれに立ち上がり、出口に向かい始める。

演説が始まる前、インタビューしたある青年はこういった。

「フランス人は、政治で何かを変えられると思っている。」

 

日本での政治のイメージでは、「信用ならないもの」だ。そもそも、「政治で何かを変えられる」と思っている日本人はマジで少ないとぼくは思っている。それに比べ、ルペン氏の集会にいたのは本気で政治で何かを変えられると語る人たちだった。だからこそ彼らは、「ルペンは力強い、素晴らしい女性だ」、「彼女はフランスを変えてくれる」「この政策を打つ彼女がいい」…と堂々と口にできるのだ。

日本で、「自分たちの状況を変えてくれるのはあの政治家しかいない!」って堂々と言える人がどれだけいるだろうか。確かに今回はルペン氏の「信者」が集まっているところだったってこともあるけど、みんなが目を輝かせながら「ルペンなら変えてくれる」って言っていたのは、本当にびっくりした。

そして実際フランスのどこに行っても、こんな風に目を輝かせて政治を語る人たちにずっと出会うことになった。

ルペン氏やトランプ氏を選択するということは、ちゃんと政治を学問的に追究したひとからすれば、「バカバカしい」ことなのかもしれない。でも、自分たちの生活が困ってしまった。そんな時に助けてくれる存在として、政治を、政府を信用しているフランス人は、ぼくは素敵だと感じた。少なくとも「政治や政治家は信用ならない」「自分が投票したところで何も変わらない」と豪語する日本人よりはマシだ。

 

演説の1時間、そんなことを考えていた。

会場の外では、人々が集まって大きなフランス国旗を広げていた。国旗の端を持って吊っている。少しのぞき込むと、国旗の中央に沢山のお金が。寄付を募っているのだろうか。なかなかユニークな集め方だ。

そんな様子を横目で見ながら、人の流れに従ってぼくはスタジアムの出口へ向かう。

出口には集会に参加していた多くの人々の背中でごった返していた。熱狂的な応援を後に、汗がにじむ背中もあった。

 

ルペン氏のモチーフは、「青いバラ」。青いバラの花言葉は「不可能を可能にする」だ。そんな花言葉に希望を抱いたたくさんのフランス人たちの背中が、やけにかっこよく見えた。どんなに馬鹿らしいといわれても、政治の持つ力、自分たちの持つ政治への力を信じて、不可能を可能にしようとするその姿が、とにかく脳裏から離れなかった。

 

#3 フレジュス、ブルジョワの街 庶民化した政治に懐疑的な人たちとの出会い

ニースでのルペン氏の集会を後にしたぼくが次に向かったのは、フレジュスというフランス南部の街。

フレジュスは一言でいうと「地中海のリゾート地」だ。

地中海に臨む街並みには、豪華な別荘や高級住宅が立ち並ぶ。突き抜けるような青空に、レンガ造りの建物。まさに女子大生が憧れる「フォトジェニックなヨーロッパ」のイメージをそのまま現実にしたような街だ。

このフレジュスで、ぼくは一緒に取材に来ているほかのPOTETOメンバーと合流した。

ぼくたちがここで泊めてもらうのは、知人に紹介してもらった現地の音楽プロデューサー、デイビットさんの家。もちろんデイビットさんの家も例にもれず、あきれるほど豪華なお宅である。

彼の家は2階建て+地下1階。外見こそ土塗りの質素な造りだが、いざ入ってみると木を基調とした空間に、豪華な革張りのソファやガラスのテーブル、そして1mくらいのどでかいスピーカーが来客を圧倒する。お風呂とトイレもCMに出てきそうなくらいピカピカだ。しかも広い。

続いて2階の寝室の扉を開けると、ドアノブに着けられた鐘がチリンチリンと鳴る。現れたのは巨大なダブルベッド。ぼくら大学生が2人寝転んでもまだスペースが余るほどの大きさだ。

地下に降りるとそこには、音楽スタジオが。さすがは音楽プロデューサーだ。足の踏み場もないくらいのエフェクターや機材、そして10本近くある高級そうなギター、ぼくの背の高さくらいはあろうかというスピーカーに、キーボード、ドラムセット…。スタジオの奥にはさらに別の部屋があり、平積みにされたCDが壁一面を覆っていた。この部屋だけでも、いったいどれくらいのお金がかかっているのだろう。

 

しかもこの家、なんと彼の自宅ではなく「セカンドアウス」(別荘)だというからさらに驚きである。(フランスでは「H」を発音しないので、セカンドハウスがセカンドアウスに聞こえた。ちなみに彼の”Are you hungry?”は、”Are you angry?”にしか聞こえなくて戸惑った)。この家が別荘ということは、自宅はもっとすごいのだろうか。想像もつかない。

そんな超絶セレブなデイビットさん。ホスピタリティにあふれるおじいちゃんといった感じで、ぼくらを熱烈に歓迎してくれた。見たこともないほど青く澄んだ海に連れて行ってくれたり、家のスタジオで大迫力の音楽を聞かせてくれたり…。まさに「優雅な余生」を堪能させてもらった気分だ。

そんな彼と楽しくおしゃべりしていたある夜、彼は自身が元軍人であることを打ち明けてくれた。フランスでは、軍を引退した人は現役時代の武器の一部を自宅に保有することが出来るらしい。もしフランスで何かが起こった時は、そんな武器を手に取って戦うのだという。今でも定期的に銃の試験を受けなくてはいけないらしい。

高校の時、世界史の授業で習ったことを思い出す。フランス人にとって政治とは、戦って勝ち取ってきたものだった。フランス革命しかり、第二次世界大戦のドイツによる占領時しかり。フランス人にとって国を守るために命を懸けて戦うことは当然という認識なのかもしれない。

デイビットさんはそんな銃の一部をぼくたちに見せてくれた。日本では一度も見たことがない、人を殺すための道具。しかし実際に見たそれは、驚くほどモデルガンに似ていて、何だか「殺人の道具」というリアリティは不思議と感じられなかった。

 

軍人時代のエピソードも事細かに話してくれた。話の最後に、彼は「ここまでしか話せないんだ。頭の中には、トップシークレットな話がたくさんあるよ」と笑った。

また、元軍人という立場もあってか、現在のフランスで頻発するテロについても熱く語ってくれた。「とにかく今のフランスはとても治安が悪くなってしまっている。ISの奴らがたくさん入ってきてテロを起こしているんだ。君たちがこの後パリに戻ると聞いていけるけど、本当に心配だよ」。

そんなデイビットさんに、今回のフランス大統領選挙についてどう思っているのか聞いてみた。

 

実はデイビットさんは会った時からずっと「政治は大嫌いだ」と話していた。けれど、テロ対策や安全保障も立派な政治論議の一つのはずだ。デイビットさんはこの選挙をどう考えているのだろう。

「無実の人々を殺し、不安に陥れるISが許せない。本当に。でも、だからと言ってルペンを支持することはできない。ルペンの言っていることはむちゃくちゃだ。彼女は宗教や人種で人々を差別して、国境を閉じようとしている。そんなことをしてはダメだ。誰が、どんな宗教を選ぼうとそれは個人の自由だ。個人の自由を奪ってはいけない。罪もない人たちの命を奪うテロリストは許せない。でも、罪もない人たちの自由を奪っていいということではないんだ」。

 

なるほど、たしかにデイビットさんの言うことは人道的に理にかなっている。でも同時にデイビットさんは十分にテロの危険を感じているはずだ。移民を規制するのでなければ、どうやってテロからフランスを守れると考えているのだろうか。さらに質問を重ねる。

「そうだな、たとえばイギリスではISだと思わしき人たちを取り締まって追放するようにしている。何か怪しい動きをしていたら対応する、という形だね。それはたしかに後手に回るやり方なのかもしれない。でもそれ以外にどんな方法がある?未然に防ぐと言っても、フランスに新たに入ってくる人がテロリストかどうかなんてわかりっこない。怪しい人を見つけてすぐに対応する、というのが最も現実的な対処法なんだ。」

時に遠くを見ながら、時に少し目に涙がたまるくらい魂を込めてデイビットさんは自分の思いを吐き出した。ぼくは聞いてみた。「そこまで、政治に対して意見があるなら、なんで政治を嫌悪してるんですか?」ルペン氏にもマクロン氏にも投票しないというデイビットさん。彼はぼくの問いに間をおかず答えた。

「それは、政治家はピエロと同じだからだよ。かれらは民衆が言ってほしいことを言って、人気を取っているだけだ。でも実際に政治を動かしているのは政治家なんかじゃない。彼らに期待しても何も変わらないんだよ。」

その後もいくつか会話を重ねたあと、最後にデイビットさんは言った。「そんな風に治安が悪くなっているフランスだけど、この家にいる限りは何としても君たちのことを守り抜くよ」。長い白髪を侍のように束ねた優しいおじいちゃん。そんなデイビットさんの強い言葉は、ぼくらへの愛に溢れていたように感じた。

しかし、何でだろうか。ぼくは何だか無性に腹が立った。

デイビットさんのいうことは確かに一理ある。政治家が民衆に踊らされているという部分はあるかもしれない。でもだからと言って政治や政治家の持つ可能性を「意味がない」と切り捨てるのは納得できなかった。

 

ぼくはいつかのSEALDsの安保法制反対デモを馬鹿にしていた大学の知人たちを思い出していた。

ぼく自身は安保法制に一定の価値を見出していたし、SEALDsは安保の悪い部分にばかり目を向けていたと感じた。だから僕自身はSEALDsを支持することはできなかったが、自分たちの理想を守るために、必死に行動する彼らの姿は称賛されるべきだと思った。少なくとも達観して何もしない大学生に比べれば100億倍マシだと思った。

多分ぼくは、政治によって社会をより良くしたいと考えている人々を、デイビットさんがバカにしているような気がして腹が立ったのだ。SEALDsを馬鹿にした大学の知人たちと同じように。

そんなことを考えながらその日は眠りについた。

しかしこの後、ぼくは嫌というほどデイビットさんの話の意図するところを実感することになる。

 

フレジュス最後の夜。ぼくらは家の近くのバーに繰り出した。

あれだけ「フランスの夜は治安が悪いから気をつけろ」といっていたデイビットさん。しかしこの夜は特に注意することもなく「いってらっしゃい」とだけ言って20ユーロを渡してくれた。ここフレジュスは、元軍人の彼が選んだ場所だ。それだけこの街はフランスの中でも特別に治安がいいのだろう。

映画に出てくるような街並みを歩いていると、これまたディズニーシーにあるようなオシャレなカフェを発見。中に入り机を囲むと、すかさずビールを頼む。

すると隣の席に座っていた50代くらいのスキンヘッドのおじさんが話しかけてきた。「お、日本人?」何やら、娘さんが京都に留学しているらしい。英語が話せるということもあって、すぐにぼくらは打ち解けた。

頼んだビールが出てくる。「フランス語で乾杯は『チン』で言うんだよ。よし、乾杯しよう」。すかさず友人が「チンチン!」と叫ぶ。するとおじさんは「やりなおしだ」と言う。なに、この人日本語も流暢なのか、と思ったが違った。「乾杯をするときは、目と目をあわせてするんだよ」。なるほど、了解しました。今度こそ目を併せてグラスをあわせた。「チンチン!」

お酒が進むと、おじさんは一発ギャクを披露してくれた。ネックウォーマーを頭からかぶり、ゆっくりと頭を出して「オギャー!」と叫ぶ。“When I was born”.これがフランス流なのか。

テンションが上がる中、おじさんは翌日フレジュスで行われるというお祭りについて教えてくれた。レトロな高級車を一斉に走らせるというお祭りで、そのおじさんも出場するらしい。

おじさんが見せてくれたスマホ画面に映るのは、『ルパン3世 カリオストロの城』で出てくるような、黒光りするレトロなオープンカー。隣には大きなキャンピングカーも映っている。どうやらこの2つの車はこのおじさんのものらしい。フレジュスは「ブルジョワの街」と言うが、本当に彼もお金持ちなんだなと改めて実感した。

フレジュスの酒場にて

そんな中、話題は「なぜぼくらはフランスに来たのか」というものに移った。

ぼくらは会話の流れで聞いてみた。「(マクロン氏とルペン氏)どっちの候補者に投票するつもりですか?」

するとおじさんはそれまでの和やかな表情から、一瞬で真剣なまなざしになって答えた。

「いや、ぼくは絶対に投票しないよ。」

「なんで?」と尋ねるぼくたち。

「ぼくは、さして考えもせずに投票だけをしているフランス人が嫌いなのさ。この国はとても投票率が高いだろ?でも、そのうちのほとんどは、自分の頭でしっかりと考えてるわけじゃない。政治家の言葉に踊らされて、彼らの人気取りに振り回されているだけなんだよ。大体、1票を入れるだけで社会が変わるなんてムシのいい話だ。本当に社会を変えたければ、まずは自分たちの周りから行動を起こして、少しずつ変えていけばいい。ぼくはね、投票をしない1割か2割の人間だ。でも、投票をしないぼくみたいな人たちはみんな同じことを思っているよ。なあ?」

おじさんはそう言って、ツレのおばさんにも同意を求める。ツレのおばさんは、首をすくめて「そうよ、投票なんてしないわ」と首を振った。

 

そのときぼくは思った。

もしかするとこの国では、政治は良くも悪くも「庶民的」なものなのかもしれない。

ニースのルペン氏の集会に来ていた多くの人は「庶民」だった。このおじさんやデイビットのような生活の余裕はない。彼らはそんな困窮した生活をどうにかしてほしくて、ルペン氏に期待していた。ある意味、他人に「自分たちの生活をよくしてもらおう」と彼らは考えていた。

彼らは自分の1票で自分の生活を変えようとしているのだ。そして、1票を投じた政治家が大統領になれば、その理想は実現されると信じている。それは政治の力を信じ、政治の本来の原理原則を信じているという点では美徳だろう。間違いない。

 

しかし、フレジュスの人々が言うように、自分の力で課題を解決しようとしていないという点においては「ひとまかせ」とも言えるのかもしれない。

フレジュスの人々はお金持ちで、多くはビジネスや仕事で成功を収めてきた人々だ。何か課題に直面した時に、その課題を解決しようと必死に頭と体を動かした結果、ビジネスの世界でも成果を上げてきたのだろう。

一方で、課題を環境のせいにして自ら行動を起こそうとしない人々が、生活に困窮する「庶民」となっていくのかもしれない。かなり偏見が含まれているとは思うが、実際そう感じてしまった。

だからこそ、フレジュスと言う高級住宅街(日本で言えば広尾のような)に住む、おそらくブルジョワ層の人々は、政治の力に頼るよりも、自身の力で社会を変えようと思うのかもしれない。ぼくらを泊めてくれた元軍人が、己の手でぼくらの身を守ろうとしてくれたように。このバーで出会ったおじさんが、己の力で社会を変えていくべきだと言ったように。

 

そう思った時にデイビットさんの、政治の力を信じる人を馬鹿にするような発言も腑に落ちた。

しかし一方で、フレジュスの彼らはリタイア勢…いわゆる余生を楽しむ高齢者だったがために、政治への関心が薄かったという考え方もできるだろう。というのも、フランスでは日本と反対に、働く世代への保障が充実している反面、高齢者向けの保障はあまり充実していない。すなわち政治が高齢者の方をあまり向いていないのだ。

そういえば、ニースの集会で空港から会場に向かうときのUber(タクシー配車サービス)の運転手も同じようなことを言っていた。黒塗りのいかにも高級そうな車を運転していたアラブ系の男性。肌が少し浅黒い彼は「ホワイト(白票)」という選択肢をぼくに教えてくれた。そんな運転手ももしかしたら、フレジュスで出会ったブルジョワのように政治にどことなくうんざりとしていた一人なのかもしれない。

 

今までぼくは、とにかく政治参加が進むことは「イイこと」だと思っていた。

ガンジーが言っていたように、国民自身が行動を起こさなければ、社会は権力者の都合のいいように変えられてしまうからだ。これは実は日本国憲法にも書いてある。基本的人権を尊重し、平和主義を貫く国家を維持するために、国民が主権をもつ。そして不断の努力によってその状況は維持される。権力に個人の幸せを奪われないようにするためには、個人は政治に参加しなければならない。ぼくはそう信じていた。

でも、政治を語る際には本来、高度で専門的な知識が必要不可欠だ。それなのに、「とにかくみんなが政治参加できるようにしよう!」と促すことは、それはそれで危険なことなのかもしれない。政治に深い理解のない多くの人々が投票してしまうことになるからだ。自分の頭でよく考えずに、1票を入れるというeasyな行為で社会を変えてしまう。それはとても危ういことのような気がする。

このフレジュス最後の夜、ぼくは今までかたくなに信じてきた民主主義の中に潜む、「衆愚政」という可能性を目の前に突き付けられた気がしたのだった。

 

#4 マクロン勝利演説編

5月7日、投票日の朝。

ぼくたちはゲストハウスのTVに貼りついて、世論調査の結果とにらめっこしていた。

 

今日の夜、ついに新しい大統領が決まるのだ。

支持率はわずかにマクロン氏が上回っていたが、アメリカでは世論調査の結果を覆してトランプ氏が大統領になった。マクロン氏とルペン氏、どちらが勝つかは結果が出るまでわからない。

ルペン氏とマクロン氏は別々の場所に勝利演説を予定していた。両方の陣営で結果の出る瞬間を見ることはできない。最後まで悩んだ末、結局ぼくたちはマクロン氏の勝利演説に行くことにした。すぐに準備をして、ゲストハウスを出る。

マクロン氏の勝利演説が行われるのは、かの有名なルーブル美術館。美術館の中庭にある広場を貸し切って集会を行うらしい。あの「ガラスのピラミッド」を背にスピーチをするというのだ。オシャレすぎだろ。日本にも世界に名だたる建造物はたくさんあるけど、大阪城で勝利演説をするなんて話は聞いたことがない。

 

地下鉄を乗り継ぎ、ルーブル美術館駅に降りる。

さすがは世界に名だたる美術館。駅の中にもたくさんの美術作品が並ぶ。薄暗い駅の中、オレンジ色のライトに照らされて美術品が浮かび上がっている。日本でいえば大手町駅のホームのような感じ。驚いたのは、そんなエモーショナルな駅に、銃を持った黒服の警官たちがいっぱいいたことだ。やはり次期大統領(その時はまだ「候補」)が来るとなるとテロなどに備えて警備を厳しくしているのだろう。

地上にでると、美術館前は集まった人たちと警察官でごった返していた。前に来た時よりもはるかに人が多い。

ルーブル美術館の厳重な警備

ルーブル美術館の入り口を探して、美術館の周囲にそって歩く。しかし10分歩いても入口が見つからない。ルーブル美術館はとにかくデカイのだ。しかも厳戒態勢が敷かれているせいか、普段なら開いていそうな門も閉じられている。ダメだ。疲れた。ぼやきながら歩き続けることさらに10分。ようやくルーブルの入り口にたどり着いた。

 

ルーブル美術館の中庭、ガラスのピラミッドの前には大きな特設ステージが組んであった。野外フェスのステージみたいだ。正面にはでっかいエビ反りのスピーカーが吊られている。ステージの両サイドには大きなスクリーンがあり、マクロン氏のPVや選挙特番が流れていた。

ぼくらが到着したのは夕方の16時頃。スピーチが始まる21時まで、まだ5時間ほど余裕があった。会場にはすでに大勢のカメラマンが場所を構えていたが、まだそんなに一般市民は多くない。先に場所を取ってくれていた友人のおかげもあり、最前列にたどり着いた。ステージまではほんの数メートルだ。こんな間近で時期フランス大統領が見れるのか…。すごい。

少し人が集まって来たころ、武装した警官たちが何やら大きな声を張り上げながら近づいてきた。どうやら「どけ」と言っているようだ。何だよ、せっかく一番前を取ったのに…。不満に思いながら場所を空ける。すると人がいなくなったステージ正面に、黒いリュックサックがあるのが見えた。警官たちがそのリュックを囲んでいる。フランス人の友人が言うに、テロリストが置き去った爆弾かもしれないという。結局そのあとでただの忘れ物だったことがわかるのだが、それを聞いた時は内心かなりヒヤヒヤした。

 

その後ぼくらは、警官にリードされて会場から離れた場所に移動させられた。どうやらここで再び会場が開くのを待つようだ。

30分から1時間ほど待った後、ようやく会場が再び開いた。人々は我先にと会場に向かって走り出す。今度は荷物チェックが行われたが、リュックサックの中身をチラッとみておしまい。警備の厳しかったルペン氏の集会に比べてだいぶザルだ。不謹慎なことだが、これなら武器を持ち込んで入っても多分バレないんじゃないか…。日本人ということもあるのだろうか。

そういえば、フランスに入国するときもチェックは一瞬だった。ぼくらの前に並んでたインド系の人たちなんか、めちゃくちゃ質問されてたのに。そんなことを思いながらぼくらは会場に向かってルーブルの中庭を駆け抜ける。

途中、マクロン氏のロゴが書かれたTシャツが無料で配られていた。水色・黄色・ピンクの鮮やかなTシャツだ。更に進むとフランスの国旗も配っている。アイテムがオシャレなのも、フランス流なのだろうか。ことあるごとに見せつけられるオシャレさに参ってしまう。

そんな風にしてグッズを拾いながらも、ダッシュした甲斐あってぼくらはまたもや会場の最前列にたどり着くことができた。

 

(ここからは是非ともこの音楽を聴きながら読んでほしい。)

 

19時ころになって徐々に人が会場を埋め尽くしてきた。まだ空は明るい。21時頃まで日が沈まないパリは、何だか一日が長い気がしてお得感がある。

会場内では、フランスでは有名であろうクラブミュージックが流れる。人々は音楽に身をゆだねて踊りだした。まだ日も沈んでいないのに会場はすでにクラブのようなノリだ。おそろいのマクロンTシャツに、おそろいの国旗。ズンズンと腹の底に響くベース音に合わせて、人々は国旗を振りながら踊る、踊る、踊る。

開票結果が発表される20時が近づくと、スクリーンには選挙特番が映し出された。4月の一次投票で負けた大統領候補や、現職の大臣、元大臣などフランスで有名な政治家たちが口々に意見を述べる。大統領の権限や職務の解説ムービーも流れていた。

現地フランス人と

フランスでは、すべての投票が終わるまで、出口調査の結果を報道することが禁止されている。投票の途中結果が、これから投票する人の投票に影響することを防ぐためだ。選挙結果は投票が終わった20時ちょうどに一斉に開示される。その段階で出口調査の結果は出そろっているため、ほぼほぼ20時になった瞬間に選挙の結果が分かるのだ。

 

そんな背景もあって、19時45分すぎごろからは選挙特番の画面の端に「残り何分」という表示が現れた。会場もより一層熱気を増す。あと10分、あと5分…まるでお正月のカウントダウンのように画面上のタイマーは動いていく。そして、あと1分、30秒…。どこからともなく、かけ声が始まる。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0…!

 

「マクロン65% ルペン35%」

 

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!その瞬間、大歓声が会場を包んだ。マクロンだ!マクロンが勝った!

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!会場の熱気がすごい!ぼくもついつい声が出てしまう。

会場は、異常なほどの興奮に包まれてた。抱き合うカップルに友人グループ。とにかくうれしくて仕方がないのか、誰もかれもが叫んでいる。あまりに歓声が大きすぎて、大音量で流れているはずのBGMさえ聞こえない。みんなフランスの国旗を高く、高く掲げて振っている。すごく嬉しそうだ。

フランス共和国の次期大統領に、39歳のマクロン氏が就任することが決まったのだ。初めて立ち会った新大統領誕生の瞬間。すごい、すごい、すごい!応援していたチームがブザービートを決めたようなすさまじい勝利の興奮が伝わってくる。思わず日本人である自分もしびれた。

会場がだんだん薄暗くなっていく。オレンジのライトに照らされて一層の美しさを醸し出すピラミッド。ルーブル美術館のガラスのピラミッドは、ライトアップした姿が美しいことで有名だ。今日はそんなピラミッドの夜景に、三色旗カラーで照らされたステージまでついている。流れ出すノリノリのクラブミュージック。そして今回は何と言っても最高の美酒、勝利がついている。勝利の宴がはじまったのだ。

ステージに司会のおっさんが登場し、会場を盛り上げる。有名な司会者なのかもしれない。その人に紹介されて、次々といろんなミュージシャンがステージに登場する。あまり有名な歌手じゃないときは会場の反応も微妙な時も。まあ、フェスみたいなものかもしれない。でも超人気歌手たちが生声で歌う、フランスの有名な黒人音楽「Magic in the Air」はすごかった。「Feel Magic in the Air. Allez, Allez, Allez.」と曲がはじまったその瞬間に会場はもう大興奮。とにかくみんなが音に合わせて踊る、踊る。ぼくらもとにかく楽しくなって踊る、踊る。

今度はよくわからんおっさんが現れて歌いだした。しかし、歌っているおっさんはそっちのけで、カメラは引き連れてきた超セクシーなダンサーたちばかりを映す。なんだ、分かってるじゃないか。インドの踊り子のようなダンサーの衣装からは、はみ出たおっぱいが。隣の白人のお姉さんはどこから取り出したのかワインを飲んでいる。隣のアラビア系のおっさんはタバコを吸い始める。そして、踊る。とにかく楽しい夜がそこにはあった。

 

そして21時がすぎたころだろうか。スクリーン越しにマクロン氏の勝利宣言が中継された。会場は大盛り上がり。中継後、司会が煽るように叫んだ。「もう数分で大統領が会場に来るよ!」

マクロン氏が車でルーブルに向かっている様子がスクリーンに映し出された。複数台の黒塗りの車を警察のバイクが先導する。沿道にはフランス国旗を持ったたくさんのパリ市民。。アパートの窓から顔を出して国旗を振る人の姿も見える。まるで地方に来た天皇陛下をお出迎えするときみたいだ。お祭り騒ぎだったのはどうやらルーブルだけではないようだ。

 

ついにマクロン氏が会場に到着した。

ベートーヴェンの「第九」が会場に響き渡り、マクロン氏が姿を現した。湧き上がる観客。第九はEUのテーマソングだ。翌日、この登場シーンでマクロン氏がフランス国歌ではなく第九を使用したことが現地メディアで大きく報じられた。

ガラスのピラミッドを迂回して、ステージに向かって歩いてくるマクロン氏。会場の歓声がピークに達する。「Macron, president! Macron, president !」オーケストラをBGMに、美しく照らし出されたルーブル美術館の中庭を堂々と歩くその姿は、まるで王様だ。そして、ステージに上ったマクロン氏が、演台にたって両手を挙げたまさにその瞬間、ちょうど曲は終わった。完璧なタイミングだった。何もかもがオシャレで、洗練されていて、厳かだった。こんなに荘厳でありながら、国民が歓声を上げてその場に立ち会うことができる。「政治が国民に開かれている」とは、ある意味こういうことなのかもしれないとも思った。

 

マクロン氏の演説は15分ほどのものだった。

フランスの社会背景を挙げ、ルペン氏支持者への理解を示した。その上で、分断されたフランスを一つにしようと訴えた。EUと共に、フランスの経済や社会を発展させていくことを強く主張した。

最後は、ステージにマクロン氏の妻のブリジット氏や関係者が登壇。フランスの国歌を会場にいる全員で高らかに斉唱した後、彼はステージを降りた。

演説が終わり、マクロン氏が去った後も宴は続いた。

会場をにぎわせていたDJが再び登場し、EDMを流す。人々は国旗を振りながら踊り狂う。マクロン氏のスピーチは終わったのだ。もう後に大きなイベントはない。それでも、まだまだ人々の興奮は収まらないみたいだ。

そして23時を過ぎたころ、ぼくたちは終わる気配のない宴を背に、会場を後にした。

 

#5 さいごに

これが、ぼくたちの見てきたフランス大統領選挙のすべてである。

このマクロンの集会をはじめ、フランスの選挙全体を通してぼくが最初に思ったことは、日本でもこんな風に「オシャレ」な政治をもっとやればいいのに、ということ。

 

有名な会場、オシャレなグッズ、派手な演出、国で一二を争う人気アーティストのライブ、荘厳な儀式的演出、国旗を彩った光、フランスが誇るワイン。五感で感じ、楽しめるこの集会は、政治や選挙に強い関心が無くても十二分に楽しめるものだった。日本にだって、世界に誇る文化がある。歴史的建造物だけじゃない。シブヤだって東京駅だって、今は工事中だけど広場として使えば十分イケてる。グッズだって、オリンピックさながら、赤や金を基調に竹田早雲にでも一筆とってもらえばいい。ミスチルやサザンだけじゃなくて、日本のロックやR&Bだってクールだ。赤と白を彩った光に日本酒で宴を起こせば、政治は一気に身近になるはずだ。

 

投票率が8割を超え、日常的に政治について議論するフランス。そこでは教育やニュース報道だけじゃなく、政治自体が国民にとって身近で参加しやすい工夫であふれていた。街中に貼られたマクロン氏やルペン氏のポスターは日本のそれとは比べ物にならないくらいイカしていた。グッズだって演出だって、日本の政治グッズや政治集会のような「ダサさ」は皆無だった。「気軽に」「たのしく」参加できる、はたまた、「オシャレ」で「カッコよく」てつい参加したくなっちゃう、目をひいちゃう…。そんな工夫があってこその、「国民の政治参加が進んだ国、フランス」なんだと思った。

 

しかし一方で、このような「政治のデフォルメ化」が進みすぎることは、必ずしも良いことばかりではないのかもしれないと思った。

 

というのも、この派手なフェスのような勝利演説を見て、先日フレジュスで出会った人々の言葉を思い出したからだ。フレジュスのおじさんは言った。「ぼくは、さして考えもせずに投票だけをしているフランス人が嫌いなのさ」。

彼らは、ルペン氏にもマクロン氏にも投票しない「棄権」という選択をした。政治は社会に溢れる問題を解決する手段に適していないと考えていたからだ。

 

日常的に議論をして投票を行うことは一見Goodに見える。しかし、必ずしもすべての国民が対立する意見の両方の主張を理解し、背景を理解し、客観的に考えた議論をしているとは限らない。自分にとって都合のいい事実、課題、政策、主張をかき集めているだけの人は多い。オシャレで誰でも参加しやすい政治はそのような悪影響を加速させてしまう。つまりは、リテラシー不足や、浅はかな思考の横行を許してしまうという、フランスの政治のマイナスの側面を彼らは語ったのだ。

 

そしてまた、投票をするだけで社会が変わると信じるのも、ある意味では無責任なのかもしれないと彼らは言った。自分たちの困りごとを解決するために、国民は(都合のいい主張や事実を基に)議論をし、投票する。しかし、それだけだ。1票を投じるという行為以上に何かを起こそうとする人は少ない。自分の困りごとなのに、解決のために票を投じることしかしない。解決の主体は政治家にお任せ。そしてうまくいかなければすぐに政治家を批判してすげ替え。それはそれでたしかに「他責」のようにも感じた。

 

結論、フランスでは政治が良くも悪くも「とっつきやす過ぎる」のかもしれないと思った。

 

そんなことを考えた時、ぼくの中で一つの疑問がわいた。

日本で今、もてはやされている「もっと若者の政治参加を増やそう!」という趣旨の運動。18歳選挙権の拡大や、若者の投票率を上げようとするこれらの活動を、多くの若者や権威のある大人たちが支持してきた。そしてぼくもまた、若者の政治参加が増えるのは良いことだとずっと信じて活動してきた一人だ。

 

しかし、このような「若者の政治参加の拡大」は本当にあえて今、目指すべきものなのだろうか。ぼくはこのフランス大統領選挙を通して、それがはっきり「良いもの」だとは言えなくなってしまった。

特に政治のリテラシーが高くもなく、新聞を読まず、そもそも学校で政治の話をほとんど習わない日本の若者。そんな若者に政治に参加する権利だけを与えると何が起こるのだろう。扇動政治家の言葉をうのみにして、自分の頭で深く考えず、見たい事実と主張だけをかたくなに信じてしまう有権者が増えるだけではないだろうか。行きつく先は衆愚政治だ。

本当に大切なことは、まずは一人一人が社会課題を解決するためにはどうすればよいかを真剣に、客観的に考えることであるはずだ。確かに現在の状況では若者の意見が政治にくみ取られにくい。若者の声を政治に反映させるという意味で、若者の政治参加を増やすことは意味がある。でも、リテラシーの向上なしに、政治参加を増やすことを良いことだと信じるのは危険だと思うのだ。

 

そう考えた時、ぼくらにできることはまだまだたくさんあるはずだ。社会課題を解決してもっと素敵な社会をつくっていくために、政治について勉強したり、考えたりするべきことはたくさんある。政治以外について考えることも沢山ある。ひとりひとりがそうやって政治への関心や理解を深め、自分の頭で考え続けること、そしてそんなことができるようになる仕組みを、ぼくたちのような団体や企業、あるいは政府が作り出すことで初めて、日本の政治はもっと前進できると思う。

 

ぼくは、そんなことを思ったんだけど。

あなたは、どう思いますか?

 

読んでくれて本当にありがとうございました。 Merci Beaucoup.

おわり

 

イギリス総選挙 「ザックリ」解説

日本時間の6月8日午後3時から投票が始まるイギリス総選挙。EU離脱に向けた方針やテロ対策などが争点になっている今回の総選挙ですが、圧勝が見込まれた保守党が予想に反して苦戦しています。

どうしてこうなってしまったのでしょうか?

今回の記事では、イギリスの二大政党である「保守党」と「労働党」の公約を紹介しつつ、この選挙までの展開を「ザックリ」解説します!

決選投票に向けて接戦を繰り広げているのは「保守党」と「労働党」。保守党は伝統的に右寄りで、労働組合運動に端を発する労働党は左寄りです。他にもスコットランド独立党や自由民主党、英国独立党などが議会下院の650議席をめぐってしのぎを削っています。

総選挙前の議席状況はざっとこんな感じ。過半数の325議席を僅かに保守党は上回っているのみです。「EUとの離脱交渉をイギリスに有利に進めるためには、強く安定したリーダーシップが必要だ」と訴える保守党のメイ首相は、議会の基盤を強化して離脱交渉を進めやすくするために、より多くの議席を目指して解散総選挙に踏み切りました。

今回の大きな論点は大きく3つ。

EU離脱方針、テロ対策、そして社会福祉政策です。ここでの注目ポイントは、EU離脱「方針」に関して議論されているのであり、二大政党の保守党・労働党ともにEU離脱自体は支持しているということです。

それでは、その中でも二大政党の保守党と労働党の公約を見ていきましょう。

保守党

選挙公約:「共に前に進もう(Forward, Together)」

▽EU単一市場から撤退する「強硬離脱」 ▽移民を年間10万人以下に抑制 ▽電気・ガスなど公共料金に上限設定

まずは現在の与党である保守党と、党首のテリーザ・メイ首相。保守党きってのエリート政治家のメイ首相は、初めての女性幹事長に就任するなど党内の要職を歴任し、前政権で6年にわたって内相を務め、テロ対策や移民問題などに取り組みました。

そして、去年の国民投票でEU離脱が決まったことの責任を取って辞任したキャメロン前首相の後任として、サッチャー元首相以来2人目となる女性の首相に就任しました。

今回の総選挙でメイ首相率いる保守党は、民意を尊重するとしてEU離脱交渉では、単一市場へのアクセスを失っても移民の規制を優先する方針(ハード・ブレグジット)を掲げ、「悪い合意ならないほうがましだ」として交渉決裂も辞さないとしています。EU離脱交渉に向けて強く安定したリーダーシップが必要だとするメイ首相は、より大きい過半数を議会で確保するために「解散総選挙」という大バクチに打って出ました。

移民問題に関しては経済成長に必要な人材は確保しつつも移民の増加を年間10万人以内に抑えるとし、テロ対策に関しては過激派思想の広がりを防ぐため、公共機関や地域社会の活動を通じてイギリス社会の価値観を守るように指導していくとしています。

 

労働党

選挙公約:「少数ではなく、多数の人々のために(For the many, Not the few)」

▽最低賃金の引き上げや既得権益への課税強化▽福祉政策に4兆2000億円投入 ▽離脱支持だがEU単一市場へのアクセス維持

もう一つは最大野党の労働党とジェレミー・コービン党首。コービン党首は中道左派の労働党の中でも左派の立場を取り、党の決議におよそ400回以上背くなど党内でも「異端児」として知られてきました。

今回の総選挙でコービン党首率いる労働党は、今回初めてEU離脱を受け入れる考えを打ち出しましたが、単一市場や関税同盟へのアクセス維持を目指す方針(ソフト・ブレグジット)を掲げました。イギリスに暮らすEU市民の権利を守るなど、EU側との関係を重視しています。

移民に対しては保守党に比べて寛容な姿勢をとり、移民の受け入れに上限は設けずにEU離脱後に新しい移民政策を導入し、人種による差別のない公平なルールを作るとしています。

以前はEU残留派の多かった保守党ですが、今回はEU離脱を受け入れたためEUから離脱するかは争点にはなりませんでした。あくまでそのやり方が「ハード(強硬)」か「ソフト(穏健)」か、でわかれているだけ。その代わりに大きな争点になっているのが福祉政策です。

保守党は一部の富裕層ばかりを優遇しており、労働者の立場を代弁していないとして対立軸を鮮明にしました。このため、支持基盤である労働者からの支持をしっかりととりつけるため、最低賃金の引き上げや、大学授業料の無償化、医療福祉政策に300億ポンド(約4兆2000億円)を投じることを打ち出し、その財源の確保のために富裕層や大企業への課税を強化するとしています。

そしてこの福祉政策に関して、思わぬ追い風が労働党に吹きました。高齢者在宅介護の自己負担増を打ち出した保守党の公約が全英から大バッシングをくらってしまい、急速に支持率が落ちてしまったのです。

また、22人の死者を出したマンチェスターでのテロの一因が警察官の減少にあると労働党は保守党政権を批判し、警察官を1万人増員することを公約に掲げるなど、テロ対策に関しても保守党との対決姿勢を示しています。

EU離脱方針、福祉政策、テロ対策に関して「VS保守党」を前面に出した労働党。その中でも労働党の得意分野である「福祉」を大々的に掲げることで、当初は「圧勝」が予想された保守党を猛追しています。

まとめ

今回のイギリス総選挙のまとめは大きく3つ

・保守党のメイ首相は、円滑なEU離脱交渉を進めるために解散総選挙を行った

・EU離脱に関して保守党はハード(強硬)、労働党はソフト(穏健)の方針

・争点がEU離脱方針→テロ対策・福祉政策へシフト、労働党が保守党猛追

保守党のメイ首相が仕掛けたこの解散総選挙。単独過半数を確保していた保守党が勝てなければ、「自殺」以外にほかなりません。

はたして保守党が何とか「地滑り的勝利」を掴むのか、はたまた労働党が「革命」を起こしてしまうのか。今後の展開に目が離せません。

Written by Kensho Kuremoto

ロシアゲート疑惑

おことわり:本作品は米紙で報道されている事実関係に基づき、米トランプ政権のロシアゲート疑惑をわかりやすく解説することを意図して制作されたフィクションです。

2017年2月14日。ホワイトハウス、大統領執務室――――――

トランプ「マイク、ジェフ。少し席を外してくれないか。彼と話したい。」

大統領特別補佐官のマイケル・フリンがロシアとの接触疑惑で電撃辞任をした翌日、その混乱が冷めやらぬホワイトハウスでトランプはコミーFBI長官と「サシ」で話すよう求めた。

何かを察したようにマイク・ペンス副大統領とジェフ・セッションズ司法長官が大統領執務室から退出し、戦後以来ずっと世界を動かしてきたこの部屋でコミーはただ固唾を呑んで目の前の最高権力者の言葉を待っていた。

トランプ「コミー長官。フリン氏はイイヤツなんだ。何も悪いことはしていない。」

2メートル近い体格を持った百戦錬磨のコミーでも、気を抜けば一瞬で気圧されそうな緊張感に部屋全体が包まれている。

トランプ「君にはきっぱりとこの件を終わりにしてほしい。わかるね?

全米にまたがる重大な犯罪を捜査し、中立性を保ちながら善悪を見極めるアメリカ唯一の機関、FBI。そのトップに政治的圧力をかけることは、明らかなルール違反…

心の中で様々な思いが錯綜する中、コミーはこう述べるのが精いっぱいであった。

コミー「フリン氏がいい人であることは承知しております。大統領閣下。」

このやりとりが、後に世界中を揺るがす大事件の引き金となる。

主な登場人物

・ドナルド・トランプ大統領

・マイク・ペンス副大統領

・マイケル・フリン大統領特別補佐官

・ジェフ・セッションズ司法長官

・ロッド・ローゼンスタイン司法副長官

・コミーFBI長官

・セルゲイ・キスリャク駐米ロシア大使

2016年12月。CIA(中央情報局)――――――

その日、CIAの幹部たちが集められ、極秘に進めていた一つの捜査に関する報告があげられた。そこに書かれている衝撃的な事実に、幹部たちも戸惑いを隠せずにいる。

「やはりそうか…」

「はい。トランプが勝利するよう、ロシア政府が我が国の大統領選に干渉していたことはほぼ確実です。」

「しかし、この情報を取り扱うにはあまりに危険すぎる。とにかく、大統領に相談しよう。」

大統領執務室――――

「まあそんなことだろうとは思ったよ。プーチンならやりかねん。」

 

オバマはTOP SECRETと左上に仰々しく刻印された資料に目を通し終わると、冷めた目をしながらそうつぶやいた。

「いかがいたしましょうか。大統領。」

CIAの長官が目の前にいる国家の最高権力に伺いを立てる。

「これがホントであれウソであれ、大統領選は終わった。国民は我々ではなく彼らを選んだんだ。その事実が覆ることはない。そして、レームダックの私では今からできることも限られる。」

自嘲的にそう答えたオバマであったが、胸の内は燃え盛る怒りに包まれていた。

オバマ「(いつか必ずこの報いは受けてもらう。トランプにも、プーチンにも。我が国を愚弄した罪は、決して許されるものではない。)」

逸る心を抑えながら、オバマは深呼吸して抵抗の意志を示し続けることに決めた。

「ただ、俺の目の黒いうちは好きにさせん。ロシアの外交官はこの国から追放だ。」

ほぼ同日。アメリカのロシア大使館――――――――

「フリンさん。ご無沙汰しております。」

セルゲイ・キスリャク駐米ロシア大使が、受話器越しの相手にそう語りかける。

その相手とは、マイケル・フリン将軍。次期政権の国家安全保障担当大統領補佐官に内定している、トランプ派閥の高官である。

補佐官という肩書きではあるが、政権内の国家安全保障の分野に関しては国務長官や国防長官と並ぶ、合衆国政府の最重要ポストの1つ。補佐官は大統領と毎日接し、防や外交全般にわたって幅広い助言や政策立案を行うなど政策決定に大きな役割を占めている。

「キスリャク大使。オバマがお宅の外交官を国外退去させてしまいましたが、ご心配には及びません。他の経済制裁についてもまぁ…。もうすぐ我々の政権です。」

キスリャク大使は言外の意味を感じ取ったのか、不敵な笑みを浮かべながら、手元にあるウォッカを口に含んだ。

「君とももう長い仲になるな…。これからも、よろしく頼むよ。」

2017年1月11日――――――――

この日、全米を揺るがす極秘文書がスクープされた。イギリスの諜報機関MI6の元職員が作成したとされる35ページほどの文書で、「ロシア政権は過去少なくとも5年間にわたってトランプを手なずけ、支援してきた。プーチン大統領の目的は西欧の同盟国の分断であった」ことが示されていた。

これに対しトランプはFake News! A TOTAL POLITICAL WITCH HUNT(偽ニュース!完全に政治的な魔女狩りだ!)とツイート

大統領就任式を9日後に控えるこのタイミングでのスクープは、トランプ陣営にとって非常に痛手であった。何とかこの騒ぎは乗り切ったが、これがこれからのトランプ政権を苦しめ続ける癌となってゆくことはまだ誰も知る由もなかった・・・

 

2月10日。ホワイトハウス、副大統領執務室――――――――

「フリン君。どういうことか、説明してくれたまえ。」

ペンス副大統領が執務室の椅子に深く腰掛け、冷や汗をかきながら目の前で立ちすくむフリンにワシントン・ポストを冷徹に突きつける。2月9日付のワシントン・ポスト。そこにはロシア大使との電話の中で経済制裁が話題にのぼっていたことを政府高官のリークでスクープしていた。

そしてそれ受け、フリン氏がそれまで否定してきた今までとはうって変わって、「経済制裁の話題が全くでなかったという確証はない」という極めて曖昧な発言をしてしまったのだ。

ペンス副大統領「君はシロだという君自身の報告に基づき、私はマスコミの連中にウチの補佐官はロシアとつながってないと言って火消しをした。もしこれが事実なら、私の面目は丸つぶれだ。」

図星だったのか。蛇に睨まれた蛙のように、フリンは震えあがる。

「も、申し訳ございません…‼‼」

ペンスは軽蔑するような目で、突き放すようにこうつぶやいた。

「身の振り方をよく考えておくんだな。じきに大統領からお達しがくるだろう。」

2月13日、マイケル・フリンは政権幹部に虚偽の報告をしたことで大統領補佐官を辞任した。事実上の解任である。

ここで、冒頭のコミーとトランプとのシーンに戻る

「いい人であることは承知しております。大統領閣下。」コミーがそう言葉を振り絞った後も、大統領は立て続けに畳みかける。

「先月の終わりに君は私に忠誠を誓うと言った。その意志は変わらないね。」

「はい。男に二言はございません。」

「よろしい。差し支えなければ教えてもらいたいのだが、君が捜査を進めているロシア政府の大統領選介入疑惑の件。私は捜査対象なのか。」

(チッ…これで三回目だぞ…)と心の中で舌打ちしながら、コミーは答える。「いいえ。大統領閣下は捜査対象ではございません。」

「わかった。では、それを公表するのはいつかね。国民は私の潔白が証明されることを待っている。」

「捜査の詳細をお知りになりたければ、正式な手順を踏んでお問い合わせください。」

「・・・・。それもそうだな。引き留めてすまなかった。フリンの件は忘れるなよ。」

「・・・・。それでは、失礼いたします。」

コミーはすぐにFBI本部に戻り、FBIの高官たちを自分の部屋に招集した。

「さっき大統領と話したやりとりのメモだ。先方はかなり焦っているようで、何をしてくるのかわからん。念のため、君たちに共有しておく。」

彼らは、目の前にある数枚のメモの内容に仰天している様子だ。その中で、コミーが話し続ける。

「念のため、にな…」

何かを覚悟したような目で、コミーはワシントンの美しい街並みを見下ろしながらそうつぶやいた。

3月2日。ワシントンDC―――――――――

セッションズ司法長官が、自身がトランプの選挙陣営関係者であったことを理由にロシア疑惑への調査に関与しないことを表明した。そのため、司法省ナンバー2のロッド・ローゼンスタイン司法副長官が捜査のトップとなった。

FBIは司法省管轄の特別機関であるので、FBI長官はある意味で「中間管理職」。司法長官・副長官はFBI長官より立場が上であり、この関係が後に大きな混乱を生む火種となる…

その後、3月20日の米議会においてコミー長官が、トランプ陣営がFBIの捜査対象となっていることを認め、FBI vsトランプ政権の構図が鮮明となった。

 

5月上旬。大統領執務室――――――

この日、トランプは荒れていた。

「コミーの野郎。俺の忠告を無視して俺らへの捜査を認めた上に、今度は捜査のためにもっとカネと人員をよこせときた。オバマが俺らのことを盗聴してたことを全く調べようとしねぇくせによぉ!※」

※トランプは選挙期間中にオバマ政権がトランプ陣営を盗聴していたと主張している。ちなみに確固たる根拠は示されていない

セッションズ司法長官がトランプの癇癪をなだめようと言葉を選んでいる。

「しかし今それを断行すると益々我々が黒の印象を与えてしまいまずぞ。そして私は今回の一件には大々的には関与できない…。」

トランプは彼の言葉を聞くと、悪そうな笑みを浮かべながらこう返答した。

「ジェフ。アタマと人を使え。コミーが大統領選直前にあのババアのメール問題を蒸し返したことを問題視してしまえば論理的に無理はない※。そしてローゼンスタインを担ぎ出せ。」

※ヒラリーの電子メール問題に関する捜査で、7月に不起訴の方針を表明したのにも関わらず、コミーFBI長官が大統領選11日前に再捜査に転じた。すぐに捜査終了を宣言するも、ヒラリーの敗因の要因になったと言われている。

セッションズ司法長官は(あれはウチにとって追い風だったんじゃ…)と心の内で思いながらも、大統領閣下の命令に二つ返事で答えた。

「できるだけ早く頼む。あと、コミーには絶対に勘付かせるなよ。」

そう告げたトランプは、この話題はもう終わりだと言わんばかりに違う仕事に取り掛かり始めた。

同日。司法省内の長官室―――――――

セッションズ司法長官はローゼンスタイン司法副長官を自室に呼び、事の一部始終を話した。

「…ということだ。君にも一枚嚙んでもらう。これは決定事項だ。」

セッションズ司法長官の言葉に戸惑いつつも、ローゼンスタインは部下としてその指示を受け入れようとした。

「わ、わかりました…。どのようにすればよいでしょうか。」

「コミーの解雇通知に、私と君の進言書を添付する。その時に君には、コミー長官がいかに件のメール蒸し返し問題で失態をしたのかを書面で説明してもらいたい。」

セッションズのその言葉に、ローゼンスタインはこれから自分が関わろうとすることの大きさを察し、心臓の芯がキュッと熱くなるのを感じた。

セッションズ司法長官と別れて司法省の自室に戻ってくると、タイミングを見計らったように大統領から直々に電話がかかってきた。

「ローゼンスタイン君。コミー長官はFBIを去らなくてはいけないと思うんだ。それも、できるだけ早く、ね。君の力が必要だ。」

(俺と長官の進言で彼の罷免を決めたという体裁を保つために、俺に「後付け設定」をつくれということだな…)

そう心の中で思いながらも、ローゼンスタインは気持ちを押し殺してこう答えた。

「わかりました。至急書かせていただきます。」

電話が切れ、一人ローゼンスタインは悩んでいた。

(明らかにこれは俺をコミー更迭の黒幕に仕立て上げようとしている…。世論の反感が一線を越えたら、俺をスケープゴートにして事態を収拾しようとするつもりだ…。)

(しかしこれを拒否すれば俺も確実にクビ…。くそっ…!)

頭の中にあらゆる思いが交錯する。ハーバード・ロースクールを優秀な成績で卒業し、アメリカ政府のエリート街道をひた走ってきたローゼンスタインは、もはや背負っているものが多すぎた。どうすべきなのか。答えのない問いにずっと憑りつかれながら、ローゼンスタインの孤独な夜は続いた。

運命の日。5月9日。ロサンゼルス、FBI事務所――――――

その日、コミーはロサンゼルスに外遊し、FBI職員の前でスピーチをしていた。

いつもと同じ。何気ない、出張の一風景である。しかし、その日常は何の前触れもなく崩れ去った。

コミーのスピーチが佳境を迎えたその瞬間、コミーの後ろのテレビに驚くべき速報が躍った。

「コミーFBI長官、解任(Comey fired as FBI head)」

振り返りテレビを見つめるコミー。

「ハハッ。面白いジョークだ。」

笑ながらそうつぶやいたコミーであったが、その場にいた側近が即座にコミーに近づき、耳打ちする。

側近「ジョークではありません長官。すぐに別室へ。」

確かにそれは、ジョークではなかった。コミー長官は昨年の大統領選のロシア介入の有無を精査していた最中であったが、「10月末に蒸し返したメール問題の責任」という名目で、セッションズ司法長官とローゼンスタイン司法副長官連名の親書と共に、解任通知がワシントンDCのFBI本部に届けられた。しかし受取人は、約4300キロ離れたロサンゼルスにいた―――――――

そしてコミー氏本人に、ホワイトハウスからの連絡はなかった。電話一本たりとも、である。

翌日。ホワイトハウス――――――――

そこでは、プーチンを抜きにした米ロ首脳会談が行われていた。

「私はつい先日、FBI長官を解任した。奴は狂っていた。本当にいかれた人物だ。」

ロシアのラブロフ外相とキスリャク駐米大使が余裕を持った表情を浮かべながら、トランプの話に耳を傾ける。

「私はロシア問題で重圧に直面していたが、それが弱まった。まぁ外野はいろいろとうるさいがね。」

トランプのその言葉を聞いたラブロフ外相は、落ち着いた口調でトランプに言葉を返した。「我々は内政に干渉しませんが、大統領の判断を尊重いたしますよ。」

トランプはラブロフの言葉に満面の笑みでこたえ、意気揚々と話を続ける。

「ありがとう。じゃああんなバカの話ではなく、もっと建設的な話をしよう。イスラム国の連中は最近ノートパソコンに巧妙に爆弾を仕掛けるようになってきているらしいぞ。というのはな…」

この席でトランプ大統領はイスラエルの諜報組織から提供された機密情報をイスラエル当局の許可なくロシアに提供した。この件はすぐにワシントン・ポストにスクープされ、再びトランプは厳しい世論にさらされることとなる…

司法省、副長官室――――――――

ローゼンスタインは、荒れ狂うメディアの猛バッシングを自室で眺めながら、また一人で悩んでいた。

「(これ以上政権が叩かれると、本当にこの政権は危ないぞ…。俺も他人事じゃない…)」

「(トカゲのしっぽで終わるにはごめんだ。このままでは司法権の独立までもが危ない・・・。あの方法をとるしかないな。)」

5月17日、ローゼンスタイン司法副長官は、元FBI長官でありコミーの盟友であるロバート・モラー氏を特別検察官に任命した。

特別検察官。政治的混乱のため司法の中立性が保てない異常事態の場合のみ設置される、どこからも干渉を受けず独自の捜査を遂行することを目的とする「特別」なポスト。その性格上、時の大統領に関わる重大なスキャンダルを担当することが多く、歴史を動かしてきた役職である。

今回、モラー氏はFBIからロシア疑惑に関する捜査権全権を委任されたことなる。

ローゼンスタイン「(これでトランプの息のかかったコミーの後任によって捜査が握りつぶされることはなくなった・・・。これでよかった、よかったんだ。)」

同日。ホワイトハウス、大統領執務室――――――――――

「ローゼンスタインの野郎!俺に断りもいれず勝手なことをやりやがって!」

ローゼンスタインは、あえてホワイトハウスには相談せず、直前になって特別検察官の設置を通知した。

怒り狂ったトランプは「This is the single greatest witch hunt of a politician in American History! (これはアメリカの政治史上、唯一にして最悪の『魔女狩り』だ!)」とツイート。

これにより、司法vs政権の全面戦争が幕を開けた。

いま、アメリカではトランプ大統領の弾劾(クビ)を求める大規模な運動が巻き起こっている。署名サイト「Impeach Donald Trump Now (今すぐトランプを弾劾せよ)」ではすでに110万人以上が署名し、ホワイトハウス内でも不安定な政権運営のせいで軋轢が生じている。

そして大統領が空席になると、副大統領が自動的に大統領に昇格する。

もしロシアとの関与が証明されてしまっては、アメリカ建国以来、最も大きくそして衝撃的な事件となるだろう。なぜなら、自分の国家の元首が、敵国のスパイだったのだから。

果たして、トランプ大統領は無実を証明することができるのか。それとも・・・・

そのころ・・・

車に乗り込むペンス副大統領――――――

運転手「お疲れ様です。副大統領閣下。」

ペンス「やれやれ。今日も外は騒がしいな」

ゆるやかにワシントンDC市内を走る専用車。

車の窓からホワイトハウスを眺めながら、ペンス副大統領は不適な笑みを浮かべていた。

 

Writer: 呉本謙勝 @DC

参考

https://mainichi.jp/articles/20170519/ddm/003/030/053000c

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50004?page=2

https://www.google.co.jp/amp/s/www.cnn.co.jp/amp/article/35101268.html

http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/05/fbi-10_1.php

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9408?layout=b

https://www.google.co.jp/amp/www.zakzak.co.jp/amp/society/foreign/20170518/frn1705181100003-a.htm

https://www.google.co.jp/amp/s/www.businessinsider.jp/amp/post-33504

http://www.bbc.com/japanese/38965105

http://m.huffpost.com/us/entry/us_5913eb36e4b066b42170fe7b

http://m.huffpost.com/jp/entry/16572828

https://www.nytimes.com/interactive/2017/05/09/us/politics/document-White-House-Fires-James-Comey.html

http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/05/fbi-7_1.php

https://www.google.co.jp/amp/s/www.cnn.co.jp/amp/article/35101467.html

https://www.google.co.jp/amp/s/www.cnn.co.jp/amp/article/35101276.html

https://www.google.co.jp/amp/jp.mobile.reuters.com/article/amp/idJPKCN18F04G

http://m.huffpost.com/jp/entry/16682392

http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2017/05/post-914_3.php

http://jp.wsj.com/articles/SB12389501321203413476904583152211094069582

https://news.yahoo.co.jp/byline/tateiwayoichiro/20170518-00071047/

 

POTETOがみたフランス大統領選挙

フランスへ

フランス着

マリーヌ・ルペン集会に参加

パリ、シャルルドゴール空港にて

EUをPRするパリの学生と

パリ政治学院の学生と

初めての選挙を控えて

マクロンとルペン、選ぶのは難しい

パリ×落書き

パリ×落書き×オバマ大統領

パリ北部、難民キャンプ

マクロン、勝利演説会場ルーブル

難民キャンプでの経験

韓国大統領選「ザックリ」解説しりぃ~ず2 THADDって一体ナニ?

THAADってなに?

THAAD(サード)とは、アメリカ軍が開発したミサイル防衛装備。敵国のミサイルをレーダーで探知し、迎撃ミサイルを発射します。高い高度で敵のミサイルに直撃させて撃ち落とす防衛システムです。

 

パククネ政権とTHAAD

2016年7月、パククネ政権はこのTHAADを韓国内に配備することをアメリカと約束しました。もし北朝鮮が韓国内に向けてミサイルを撃ってきても、地上に着弾する前に撃ち落とせるようにするためです。しかしこれに中国とロシアが反発。特に中国では韓国製品の不買運動など、露骨な反発が起こりました。そういった外交状況もあり、パククネさんの政権のうちに配備を進めることができませんでした。次の大統領がこの配備をするかどうか、最終的な判断をすることになりそうです。

 

中国はなぜ怒る?

ところで、なぜ守るための装備であるTHAADに中国やロシアは反発するのでしょう。その理由はTHAADに搭載されているレーダーにあります。THAADのレーダーは非常に高性能で、レーダーが探知できる距離はなんと1000㎞。これは東京から釜山までのおおよその直線距離にあたります。韓国への配備が実現すれば、北朝鮮全域がこのレーダーの監視下に入ります。しかしそれだけにはとどまりません。中国やロシアの一部もこのレーダーで監視できるのです。そのため、中国やロシアは自国の核能力が抑制されるとして反発しているのですね。

 

大統領候補とTHAAD配備

外交的に大きな問題を抱えるTHAAD。大統領選でも大きな争点となっています。当初THAADに賛成していたのは、旧与党だった自由韓国党のホン・ジュンピョさんと、正しい政党のユ・スンミンさん。この選挙の「二強」とされている、共に民主党のムン・ジェインさんと国民の党のアン・チョルスさんはTHAAD配備には反対の姿勢をとっていました。

しかし、最近になって北朝鮮はまたミサイルを発射。アメリカは空母を朝鮮半島に向かわせるという強硬姿勢をとっています。この緊迫する北朝鮮情勢の中で、ムンさんとアンさんもTHAAD配備に賛成の姿勢に。当初からTHAADに賛成していた候補は、ムンさんとアンさん両候補の急な政策転換に「一貫性がない」と批判しています。一方、左派政党のシム・サンジョンさんは唯一、いまだTHAADに反対しています。

今後、アメリカと北朝鮮をめぐり情勢はさらに変化していくでしょう。それに伴って、大統領選挙でも支持率や政策に動きがあるかもしれません。北朝鮮と大統領選、どちらからも目が離せません。

ちなみに、北朝鮮情勢で危険にさらされているのは日本も同じ。「日本もTHAADを導入したほうがいいのでは?」という声も上がっています。実際に今年1月には稲田防衛大臣がアメリカでTHAADの視察を行いました。

今の日本には、二種類のミサイル迎撃システムがあります。一つはイージス艦から発射されるSM3。もう一つがPAC3(パックスリー)と呼ばれるものです。もしもミサイルが発射された場合、イージス艦がまず迎撃ミサイルを発射し、それが外れた場合、最後の砦としてPAC3が迎撃する仕組みです。

THAADはこの二つ(イージス艦とPAC3)の中間の距離での迎撃を得意とします。ですから、もしTHAADが日本に導入されたら、イージス艦→THAAD→PAC3の3段構えでミサイルを迎撃できるわけですね。

実はこのTHAADに導入されている高性能レーダーは、すでに日本(青森と京丹後)に装備されており、ミサイルが飛んでこないか監視しています。北朝鮮のミサイル開発が進み、不安が募る日本。3つ目の防衛システムとして、THAADが導入される日も近いかもしれません。

 

http://www.huffingtonpost.jp/ian-armstrong/thaad-china_b_11763794.html

http://www.sankei.com/politics/news/161226/plt1612260010-n1.html

http://www.army-technology.com/projects/thaad